牡蠣と99ペンス


大英帝国ロンドン紀行

■1995年12月27日(水曜日)旅立ち・機内ジェットサーフィンでロンドンへ

朝の農道に陽が昇る。成田国際空港への道である。
暮れのあわただしい中での旅行準備は、結局バッグに衣類を詰め込んだだけに終わった。
一昨年のハワイ旅行のノウハウはあっても、熱帯から極地に行くような違いがあるのである。

前回利用した、空港近くのUSAパーキングに車を預け空港に向かう。
空港到着後、予約していた国際携帯電話のレンタル手続きや、
ポンド両替、日本最後の「納豆・塩鮭」の朝食を摂る。

格別な感傷はない。
今回はANAの利用だが、国際線後発組らしく全てが端っこである。
搭乗手続き、出国審査、おっと!出国カードにサインを忘れてゴメンゴメンなのである。
搭乗ゲート前は、ギャルのウンコ座りが集団占拠・・・
時代の象徴と言ってしまえばそれまでなのだが、日本の恥だねえ、見たくない風景である。

やがて機上の人となり、NH201便ロンドン行きは11時30分定刻に
グイイーンンと舞い上がったのである。
新潟方向に日本横断、日本海をまたぎ太陽を追いかけ西に向かう。
拷問」「修行」といった心地の機内の時間を、「水割り」「週刊誌」
そして「夢とうつつ」に置き換え、肉体を椅子の形に変形させるのだった。

中国大陸からシベリア上空をひたすら飛び続ける。
「落ちたら熊の餌。ロシアの熊は腹を空かせているんだろうね」などと語らいつつ過ごす。
食って、飲んで、眠って、結果としての次なる出力の「催し」に個室に向かう。
近頃のテクノロジーは、果たして「空中散布方式」なのか「タンク式」なのであろうか?
などと考えているうちに、ドドン!と、大きな縦ゆれである。
続けて、前後左右に「おっうぉーーーっと!」なのである。
便器の中の液体が尻を下から洗わんと波立っているようである。
便器に座ったまま、機内アナウンスに耳を集中する・・・
「空中状態が、極めて悪い・・・ベルト着用・・・トイレ使用禁止・・・」

おいおい!「入る前に言ってくれ」ってんだ。
!!! なのである。すべきものは止めるわけにはいかない。
終わりかたも問題である。なにせ、拭くべきところは拭かねばならぬのである。
これがまた、一筋縄ではいかない、結構面倒な作業なのである。

その最中であっても、ずずん!ズズン!ギシギシ!と機体はゆれ続ける。
南無阿弥陀仏・・・アーメン・ソーメン・・・トホホホホ!

ほうほうの体で、片手ハンドル、片手でズボンをずりずりと着用し機内に戻る。
激しい上下左右動の続く中、座り込んだスチュワーデスやら乗客どもの驚愕、軽蔑、侮蔑、尊敬
の視線に、うなづきつつ微笑み返しながら自席のベルトをパチン!と、締め上げたのである。

「ふ〜〜うっ!」
隣席の妻の視線と尻の周りがなんとなく冷たいのを、自信の横顔で受け止めたのであった。

修行と懺悔の12時間の後、ANA・NH201便は黄昏のヒースロー空港にふんわりとあっけ
なくも着陸したのであった。
入国手続きもすんなりと終え、空港ロビーは著名なる旅行会社のガイドたちが客の分類とホテル
搬送のお仕事に動き回っている。
その外れに、我ら夫婦を待つANAハイライトツアーパック現地駐在員がぽつねんと待っていた
のであった。

空港からバスで市内へ、早い夕暮れの中にロンドン郊外の団地風景が広がっている。
整然とした余裕の高級住宅の出現!「うーーみゅ、いきなりカウンターパンチでやってくれるで
はないか」
驚く間もなく、市内の街並みは観光写真のロンドンである。
ネオンのない白熱灯のやわらかさに、懐かしい夜の街の雰囲気がひろがっている。
ホテルに到着しチェックインまでがANAツアーのお役目かと思いきや、
翌日、効き目のあるところをちょいと半日バスツアーはいかがか、とのこと。
「取りあえず参加しましょう」と決めガイドと別れる。

宿泊するスタキス・セントアーミンズホテルは中規模ながらも歴史を感じさせる落ち着いた雰囲
気である。
ロビーの中央にはクリスマスツリーが、美しく品よく鎮座している。
そういえば、街のイルミネーションもクリスマスムードであったことを思い出す。
クラシックな造りの3人乗りエレベータで部屋へ。
古いホテルだがエレベータ表示はディジタル、部屋の鍵もカードキーである。

室内はまずまずのツインルーム。
さて、一風呂浴びてお茶でも一杯。と準備する・・・「お湯がぬるい!」
「げっ!水がまずい」のである。
40度程のぬるめのバスに身を横たえ、苦難と忍従の空中修行の疲れの肉体を癒す。
シャワーの湯がやや熱めであることから、シャワーを臍に当てつつ、ふにゃらら状況を楽しむ。
「ぬるい風呂も悪くない・・・」と、簡単に郷に入ってしまうのであった。

ツアーガイドの忠言どおり、飲み水はミネラルウォーターを用意せねばならん。
晩飯も食わねばならん。と、街に出る。
取りあえず様子も分からん夜でもあるからホテルの近くで済まそう、と、ぶらつく。
コンビニ的食品店に入り、ミネラルウォーターのコーナーをまず覗く。
成る程なるほど、炭酸入り、ナチュラルの2種類にメーカー別と多種多様である。
値段もペットボトル1本40ペンス(70円)から99ペンス(160円)まで幅がある。
やはり、安いフランス製より地元英国、それもスコットランドの高級品を飲もうではないか!と
夫婦の意見は一致したのであった。
ロンドンでの記念すべき初買い物は、ラベルもブルーで美しい99ペンスのスコッチミネラルウ
ォーターなのであった。

この日より、この店で我が家の定番となった99ペンスの水を毎日買い、
1ペンスのお釣を貰う不思議な日本人とは私のことなのである。
さて、命の水の後は命の食事と、ミネラルウォーターのペットボトルをぶら下げてレストランを
探す。
同じ通りの数軒先に、レストラン・クイーンアンとやらの白を基調とした小奇麗なイタリアンレ
ストランを発見し入店する。
店構えと異なり、むくつけき大男のウェイターがイタリア的笑みを満面に愛想よくお出ましである。

パスタ・ボンゴレトマトソース、サーモンステーキ野菜ソース、
ラガービール・1パイント&ハウスワイン2グラスで腹を満たし満ちる。
苦みの効いた英国ラガービアは、乾いた喉に幸せの旨さである。
が、パスタの茹で加減はアルデンテに程遠いでんで。
付合わせのホーレン草は、かの林望先生の言うとおり徹底的に茹でぬいてある。
まさしく緑色の食物繊維の塊と化していたのである・・・あぁ!

味付けも薄く眠たげでんで。とはいいつつも、量は大盛りイタリアサイズを全部平らげてサイン
する。
日伊同盟の友好を笑顔に添えて、べりーぐっど!ぐっどいぶにんぐ!と、ホテルに戻る。
小さめだが固めの心地よいベッドに潜り込む・同時的な・間もなく・ロンドンの第一夜眠りに就
いたのであった。
いびきの音色もzzzzzZZZZZと、えげれす風であったことであろう。


■12月28日(木) 英国式朝食の威力は12時間

快適なベッドのためか、意外と旅の疲れが残っていない朝の目覚めだ。
7時を過ぎているが窓の外はまだ暗い。一体、日の出は何時ごろになるのやら?。
9時の市内見物半日ツアーお迎えの前に、朝食を摂らねばならぬ。
コンチネンタル・ブレックファーストのルームサービスは宿泊費にセットされているのだが、
正しい英国式朝食を食べようと決めてあったのである。
レストランはビュッフェスタイルである。
「いいんでないかい!」と着席後、皿を抱えて一回りする。
シリアルはパスっと。フルーツ、トマトジュース、焼きトマト、生トマト、 パンと目玉焼き、
ベーコン、うまそうなソーセージをあれこれ、真っ黒なソーセージも1本いただきましょう。
魚のフライにフライドポテト。
山盛りの二皿をテーブルにセットする。
成る程こうして見ると、英国式の朝食はどどんっとしっかりしている。
味わいも、うーーーみゅ、結構うまいではないか。
やはり、ソーセージ、ベーコンの味わいが深い。
真っ黒なソーセージは本物のサラミ?まさしく「血」そのものであろう。
しっかりと食べる。(後に、この「血の固まり的ソーセージ」こそがクリスマス特別料理である
ことを知ったのであった。)
そして、かの有名な「可能な限り薄くスライスされた三角トーストは、評判ほど悪いものではな
かったのである。

さて、われら夫婦はいつぞやものの本で読んだイギリス定番料理であるとのご宣託の「酢漬け
鰊」を食いたいのである、とメイドにピクルド・キッパーをオーダーする。
が、鰊の単語が違うらしい。
東南アジア出身のメイドとの会話を聞きつけた隣席のご婦人の助けと、厨房との協議の結果サー
ブされた一皿は、「鰊の燻製グリル・レモン添え」であった。
それなりに、うまい!と、夫婦は腹に納めたのであった。

幸せの満腹をダウンジャケットに隠しロビーにたたずむ。
「ミスタ&ミセス ユリトラ?」と、英国紳士のお迎えはツアーガイド氏であった。
バスでホテルの客を拾いつつ、ロンドン市内の効き目のあるポイントを流暢な正しい日本語で説
明していただく。
ウェストミンスター寺院、ビッグベン、ロンドン塔、・・・シティオブロンドンはローマ人に占
領され文化を引き継いだが、シティオブウェストミンスターはケルト人が住んでいたため、今でも
下町である・・・・・。
ここが、映画「哀愁」でおなじみのウォータールーブリッジだが、作り直したのでおもかげもあ
りません。
にゃるほど!どうりで!・・・さぁさぁ、バッキンガム宮殿衛兵交代の時間ですぞ、と、世界中
のオノボリサン達が宮殿前広場周辺道路に群がっている歩道にわれらも最前列に位置を確保する。
中世風のマントに身を固めた騎馬警官が二人一組となって何組も宮殿に向かって行進していく。

なんと、その組み合わせは「お決まり」なのか、腹の出たオジン警官と可愛い?ギャル婦警のペア
なのである。
中年警察官のお仕事を楽しくする粋なはからいなのか、または若者同士の組み合わせに懸念され
る騎馬失踪事故防止のためなのか?が、尋ねる術も無い疑問として永遠化してしまったのであった。
見物場所の周辺はテキサスからの修学旅行?の高校生がきゃっきゃ・きゃっきゃ、と猿軍団して
いるのである。
市内の交通は日常どおり自動車やバイクが走る回る。
成る程、日本のように白い車はほとんど見かけない。

「ピカピカの車も少ないねぇ」などと話しているうちにやがて、熊毛帽をかぶった衛兵が小銃を
肩に整然と行進していく。
最後尾は通信兵であるが、なんと背中の無線通信機もコートと共布のグレイの生地でカバーされ
ているではないか!
「うーみゅ、お洒落である」
日米中ソ軍事体制においては、たぶんカーキ色の金属筐体むき出しであろうに、
と、考えてしまうのだ。

さて、メインイベントは終わりました。と、偉大なるエリザベス一世陛下の巨大な像を見上げつ
つバスに戻る。
トラファルガー広場のネルソン提督像は塔のてっぺんだとかでバスの窓からは見えない。
そうこう言ううちに本日の終点、ANAハウス高島屋前にバスは横付けである。
「御用とお急ぎでも、店内へどうぞ!」「私が店長でございます、お値段はロンドン標準、寸法
直しは日本の高島屋が責任をもって・・・・・」
そうかい、そうかい、そうなんだ。そういうシステムであったのか!と感心しつつ店内を一回り
する。
妻のゴルフ仲間へのお土産にセントアンドリュースオールドコースのネーム入りゴルフボール
を二箱だけ買い、そそくさと店を出る夫婦なのであった。
オールドボンドストリートからニューボンドストリートへ戻り、忘れぬうちに、あせらず選べる
時間にと、娘のお土産を選び購入する。
格式あるもったいぶった店員の対応に、「ああだこうだ」と品選びしジョージ・ジェンセンの銀
ペンダントを購入する。実は、誕生石入りのペンダントが素敵ではあったのだが、たまたま品切れ
なのであったのだ。
エリザベス女王的風貌の女店員は慇懃無礼に「誕生月にこだわらなくても、別にねぇ!」などと
商売むき出し発言を平気でするのであった。



さて、私のお役目であるサインのあと市内観光を自分の足でしましょうね、と歩き出す。
オックスフォードストリートそしてリージェントストリートからピカデリーサーカスへと街の
雰囲気が一気に浅草的に様変わりしていくのが面白い。
コベントガーデンのわやくちゃな雑踏に辟易し広場の紙芝居的人形劇にカメラを向けたとたん
「百円ちょうだい!」とおっさんに帽子を差し出される。
「馬鹿いってんじゃないよ!」と思いつつも、ポケットの銅銭2〜30円をチャリンと進呈する。
古着屋さんやら、ガラクタ屋さんはやっぱり「胡散臭い」。
小さな八百屋でフランス産青りんごを買い求め、齧りながらコベントガーデンを脱出する。

チャリングクロスロードからオックスフォードロードへ歩き続ける。
浅草的風景から、新宿的風景へと街が変化する。ソーホーの雰囲気はちょっと危ない感じが漂う。
有名なネクタイの安売りショップ「タイラック」を覗く。
すべてイタリア製品である、数本選んで買わんと欲するが、アメリカ人のオバチャン達のパワー
に「負けそー!」なのである。何処においてもオヂさんはかなわんのである。

そろそろ、人込を避けたい。「静かなところに行きたいね」
「ハイドパークのスピーカーズコーナーを商売柄見ておきたい」
というカミさんの意見に従い、歩きつかれた身体をバスに委ねることにする。
かの有名な二階建てバスの車掌さんは黒人女性であるが、
「ハイドパークに着いたら教えたげるわ、二階で見物してれば」
などとのありがたいお言葉に感謝しつつ二階座席に、「どっこいしょ!」するのであった。

クリスマスセールに沸き立つ雑踏と渋滞の中を、バスは結構強引に進行する。
リージェントストリートからくねくねと曲がりつつ、ケンジントンロードへ。
ホテル・リッツ周辺はさすがに「銀座」といった趣である。
「オキャクサーン!ハイドパークにツイタワヨー!」てな案内に、バスを降りる。地下道を潜り
抜けつつ反対側のハイドパークに到達する。
成る程!街の景観を第一に考えれば、横断歩道よりは地下道のほうが美しい。

静かに広い公園の側面は、一直線の鈴掛の道である。
はるか公園の反対側に見える建物の影に夕日が沈みつつ空を染めている。
音もない空間に私たちと風だけが時を刻む。

冬茜 街たそかれて 鈴珠の影

まっしぐらに自転車が向かってくる。左によけつつ、よく見ると人道、自転車道などと区分され
ているのであった。
にこやかに「サンキュー」と走り去ったチャリンカーが正しかったのだ。
突如、馬の蹄の音とブフフフという鼻息が聞こえて、数人のホースライダーが通り過ぎていく。
なるほど、ガイドブックにあったホースライディングコースがこの辺りであったのだ。さて公園
の端っこに到達し、確かこの辺りが「スピーカーズコーナー(演説広場)」のはずだが。
と、きょろきょろする。

黄昏の公園の片隅に、いるではないか!。
ビールケースのような箱の上に立ち身振りよろしく演説する男と、
対面し聞いている男の姿が夕闇に浮かんでいる。
何を語り、何を訴えているのか定かではないが、1対1の男の対決なのであろうか。
厳冬の風が冷たくなってきた公園に熱い空間が存在しているのだ。

彼らを横目に地下鉄でホテルに戻ることにする。
マーブルアーチ駅からノッチングヒルゲート駅で環状線に乗り換えセントジェームスパーク駅下車でホテルへ。
駅の側のニュースコットランドヤード(ロンドン警視庁)は日本ほど厳めしくない。
やれやれ、「よう歩いたわい」しかしながら、英国式朝食の威力はりんご以外の昼食を受け付けない
ボリュームなのであったことに改めて気がついたのであった。

さて、ホテルで入浴後は食事の研究である。ロンドンといえばパブにも行かねばなるまい。
ガイドブックのパブ案内もなかなか決めがたい。
ふと、目に留めたパブ・シャーロックホームズとやらも興味がある。
確か、昨日バスの車中から見えた記憶がある。トラファルガー広場近くであった! はずだ。

「それ行け!合点」と、出陣である。本日タイラックで購入したイタリア製ネクタイをきりりと
結び、乗りなれた?地下鉄でエンバンクメント駅に。
地図を頼りに探すが見つからない!「どうしたワトソン」とカミさんホームズが急っつくも、
無い物はない!のである。が、しかし路地を尋ねること15分。
目指す「パブ・シャーロックホームズ」は独特のロンドンカラーで目映く佇んでいたのであった。

店内は1階は例のスタンドバーであるから、2階のレストラン部に突撃である。
階段を上ると小部屋の暖炉の前にホームズが座っているではないか。
窓越しに眺めつつ、運良く空いていた狭いテーブルにつく。
「やれやれ!」とメニューを眺めると、全品小説ゆかりのネーミングではないか。
「ヴァスカベル家の犬のステーキ」やら「まだらの紐のスープ」
ウソウソ!的な名前であったのだが忘れてしまった。

スターターは、ツナ&アボガド。コンチネンタルラガーは爽やかに苦く喉に歌声を呼ぶ。
三角形の薄切りパンがなんとなく添えられて料理が運ばれる。
スモークドサーモン・ローストビーフ・グリルドトラウト・ミックスサラダ
ガーリックブレッド・なんたらチキン&ラガービアのぐびぐび!で、
私、ミスタ・ワトソンは夜に融けていくのであった。

たっぷりと飲み食いして、約36ポンド(六千円ちょっと)にサインする。
腹一杯のミスタ・ワトソン&ミズ・ホームズは、かの有名なロンドンタクシーに乗り込んだのであったが、
いやはや荒っぽい運転なのである。
車の構造からも、決して急カーブを得意としない筈なのであるが、
平気で遠心力を味合わせてカーブするのである。
「確かに道を知っている」から「路地でも何でも近回り」しつつ「目的地に突撃」する
ジョンブル魂なのであろうか!
到着するなり、「俺は忙しいんだ、さっさとチップをよこせ!」
じゃぁ! Bbbb!BBBB〜〜 てな行動様式であったのである。

この後数回、ロンドンタクシーを経験するが、似たようなもんであった、
私のロンドンタクシー感はあまり良くないのである。


■12月29日(金) 五角形のチューブに乗る。天国と地獄・地獄で仏、危機一髪

昨日の朝食はうまかったが、夕方まで何も食えんという弊害をもたらした。
食うことも重要な楽しみとしたい夫婦としては、問題でもある。
節約の意味も込めて、本日は宿泊朝食セットのコンチネンタルブレックファーストの
ルームサービスとしたのである。

例によって外はまだ暗い、朝七時、ノックとチップを交換に朝食が運ばれた。
ポットの紅茶、ミルク、トマトジュース、ケロッグコーンフレーク、クロワッサン、バター、
チーズ、甘いお菓子などが山盛り状態である。
買い置きのオレンジなどの果物といっしょにテレビニュースを見ながら食すのである。
日本では「絶対的和食派」の私であるが、生存本能が「何でも食え!」と指示しているらしい。
悲しいかな「何ともない!」のである。
そうは言っても、食後は日本から持ち込んだ緑茶をカップで啜るのであった。

さて、本日の行動は極めてキッチュに攻めよう。と、地下鉄に乗り込む。
ロンドンの地下鉄は1日乗り放題2ポンド80ペンス(450円)という安くて便利な切符が提供されている。
日本の定期券サイズの裏磁気チケットであるが、自販機ではなく窓口購入がロンドン的なのであろうか。
ロンドンの地下鉄は「チューブ」と呼ばれている。
理由は、丸いトンネルの形にあわせて列車を作っているのである。
つまり、円筒形の列車なのである。
??? それは、嘘なのであるが、円筒ではないが、
なんと五角形的に上部の角を切り落としたような変則形なのである。

乗車して特に不都合なことは無いのであるが、
ドアの前に立つと通常暗いトンネル内ではドアのガラスに我が身の上半身が映り、
ガマ的に脂汗をタラリと滴らすかタレント気取りで「うっとり」と眺めたり、
はたまた後方の美女をそれとなく観察したり出来るはずなのだが・・それが出来ない。

内側に湾曲したガラス面には「何も映らず」暗いトンネルの壁が見え隠れするだけなのだ。
「うーーみゅ! なんとも、つまらん!」と、
車中、なかほどに進み吊革に掴まろうと手を伸ばせば「吊革が無い!」のである。
吊革の有るべき場所には吊革ならぬ、「吊り玉」が下がっているのであった。

ステンレスの自在管(フレキシブルパイプ)の先に、
プラムサイズの黒いプラスチックの玉がくっ付いているのだ。
握った感じは悪くは無い。
どちらが合理的であるのか即断は出来ないが、黒い玉がずらりと並んだ眺めは、ちょいと眼には異様でもある。
さらに、驚くことには下車時のドアオープンはOPENスイッチを押さねば開かないのである。
ぼんやりと待っていると、乗車客が居ないことには降りそこなっちまうのである。
「油断できない地下鉄!」なのである。

さて、ボタンを押して無事にベーカーストリート駅を降り地上に出る。
まずは、カミさんのたっての希望をかなえるべく「マダム・タッソー蝋人形館」に向かう。
なんとなく、その方向に人の流れが激しい。雰囲気もオノボリサン的である、もしや???。
悪い予感は当たるものである。
なんと、蝋人形館の入り口から延々と連なる行列が一周以上の長い蛇!なのである。
「いやはや。オープンからこれでは、中は一体どうなっていることやら」
「蝋人形が人の熱気で溶けているに違いない!火でもついたら、えらいこっちゃ」
「やぁーめた!」と、いうわけで次ぎなる目的地「シャーロック・ホームズ記念館」に向かう。

われら夫婦は結構「即断即決・迷いを知らぬ行動派」なのである。
悪く言えば、「ミーハー的適当こだわり派」なのであろうか。
記念館は、なるほどそれらしく時代物をセッティングしてあり、
書斎やらベッドルームやらも今にも彼らが出現しそうなたたづまいである。
ベッドや調度品のサイズも現在のものに比べると小さめである。
人間のサイズがこの数十年で世界的に変化した証なのであろうか・・・?

私たちを含めやたら見物人が多いことから、そう長く眺めているわけにもいかず、
来訪者の名刺をどうぞ!といったコーナーに私の名刺なども張りつけてきたのである。
カミさんは、近頃眼が遠いとかで、どこにでも売ってはいるのだが
持ち手にシャーロックホームズの像をあしらった天眼鏡などを売店で買ったのである。
ちょいと離れた地下鉄の駅近くの本物のベーカー街221B番地には、
ホテル・シャーロックホームズが建っているところも英国的現象なのであろう。

地下鉄ベイカーストリート駅からサウスケンジントン駅乗り換えでナイツブリッジ駅へ。
ロンドン最大のデパート・ハロッズへ。
まずは腹拵えを、と1FのレストランPIZZERIAへ。
店内中央にピザ焼釜を備えた本格的?イタリアンバー風レストランである。
コックのピザ生地を空中投げつつ延ばす技を眺めつつ、スパゲッティトマトソース、
グリーンサラダ、ハロッズラガービアを食いつつ飲む。
「旨い!」「☆☆☆」それにしても、量が多い!。
隣席の若き女性が単独で12インチの分厚いピザに食らいつく姿は動物的でもある・・・
「うーみゅ。負けた!」なのである。
エスプレッソで胃袋をなだめつつ、イタリア娘のウェイトレスに別れを告げる、
「27ポンド65ペンスよ!」<二人で約4,700円>
「ほな、30ポンドで」お釣の35ペンスをポケットにねじ込みつつ、いざ店内に突入する。
カミさんのファッション関係にお付き合いし、「安いわぁー!」「そうだねぇ」と相づちをうちつつ
店内をウォッチする。お気に入りのバッグを発見した幸せ顔を見るのも、ポーターの喜びでもある。

新発見は、英国人と日本人の違いは腕の長さが約5cmもあるということなのである。
つまり、衣類は胴に合わせると確実に手のひらが出ない!のだ。
昨日、ロンドン高島屋が「日本にお持ち帰りの後、寸法直しはきちんとしますよ」と、
強調していた理由はこれなんだ!!! と、感心したのである。

さすが英国!と感心したのはアウトドア売り場の充実である。
「釣り」「ハンティング」「ゴルフ」「登山」「キャンピング」はもとより
「ホースライディング」が凄い!
なにせ、馬具を装着して試せるように「馬」の実物大模型が堂々の勇姿で鎮立しているのであった。

お土産などの袋を抱えつつ、ガイドブックお薦めのシーフードレストラン・グリーンを探し
予約してホテルに戻るのであった。

黄昏のロンドン繁華街でのウインドウショッピングも楽しい。
レストラン予約時間前の小一時間を高級陶器やネクタイなどをひやかしつつ過ごす。
レストラン・グリーンの落ち着いたテーブルにもクリスマスの華やかさが漂っている。
大西洋の牡蠣が楽しみで来たのだ。マリオ的口髭のウェイター氏とメニューを選ぶ。

もちろんの「牡蠣」、スコッチスープ、シーフード盛り合わせ、と、当然のラガービアで発進する。
牡蠣は「えっ!」っと、驚きの形である。
小ぶりのホタテ貝的殻の中身は蛤風の引き締まった身が「食べると爽やかな牡蠣」なのである。
レモンだけでも「美味しい」が、刻んだエシャレット?入りビネガーソースも「絶品・絶妙・美味」なのである。
マリオ君に半ダースの追加をオーダし、やっと落ち着いて食する気になったのである。

スープは英国であるから「コンソメもポタージュも無い!スコッチスープである!」
と言い切っただけあって、大ぶりの白いどんぶり的器にどーんと登場した姿は見事である。
ビーフ、キノコ、人参、いんげん、セロリ、はと麦、玉ねぎなどの具沢山のトマトスープは
滋養溢れるハドソン婦人の家庭料理?といっても良いであろう。
「涙が出るほど、旨い!」「英国は美味しい!」のであった。

さて、メインのシーフード盛り合わせは、大きなボイルロブスター、厚切りスモークドサーモン、
ごろっと大きな蟹肉と蟹肉の蟹味噌ソース和えも見た目にも迫力がある。
添えられたレタスや赤い貝割れ大根と、固く引き締まった酸味の強いトマトも
「自然だぞー!」と叫びながら、口の中を暴れまわるのである。
いやはやの絶品づくしにワインの味も忘れてしまったのだ。

例によって、薄切り全粒粉三角パンもなんとなく鎮座した食事は「英国は本当に美味しい。
ほんとだってば!」と言わせていただく。
奥様のいちごソースたっぷりのデザートの代わりに、
私はあらためて「牡蠣半ダース」を頂戴し晩餐を終えたのであった。

豪華な美味しいお食事は、お二人合計105ポンド<約18,000円>。
とても日本では味わえない素晴らしい高級海鮮でございました。

しからば支払いをとカードを取り出すが、「無・・・無い!」のである。
とにかく、とりあえず、手持ち他社のカードで支払いを済ませる。
ホテルにすっ飛んで帰り全身チェックするが無い。
なにはともあれ東京に連絡して利用停止をかけることが先決である。
残念ながらホテルの電話の具合がよろしくない。
深夜のロビーの公衆電話も面倒だ、
「ええい!こんな時こそ、この携帯」と日本からレンタルしてきたGMS携帯電話から連絡手配する。
即時、利用停止措置実行!「ほっ! これで悪用されても被害最小限」さて、どこで無くしたか、
盗られたか。最後に使ったのは、ダンヒル本店でのネクタイ購入だったが・・・・

東京のUC緊急サポートデスクは「警察に届けよ、詳細はロンドンUCデスクに相談してください・・・」
やれやれ、面倒なことになっちまった、のである。
カミさんの「馬鹿ねぇ!
(口に出してしまうと、つまらん夫婦喧嘩に発展することを予防する知恵は持ち合わせているのである)」
を全身に幽気の如く漂わせつつの気配にもじっと耐えるわたくしなのであった。


■12月30日(土) 驚愕の大英博物館



天候はどんよりと鈍色の曇り空だが、ホテルの窓からビッグベンが遠望できる。
そこだけが朝日にあたっているのも不思議な光景である。
時間を待って、昨夜の始末作戦である。
相変わらずホテルの電話が不調である事から、
GMC携帯電話から、ロンドンUCデスクにくだんの件を相談する。
事例としては多いらしく手慣れた段取りで「利用停止の措置が済んでるなら心配ないわ!
警察は届けてもしょうがないから不要よ! カードの緊急発行も帰国日を考えると時間的に無理ね! 
他のカードを持っているなら不便でもそれを使ってよろしくね、日本に帰ったら再発行の手続きを
すぐにするといいわ!」
「あぁそうそう、ホテルの電話が不調なことはわたしからホテルに言っといてあげるわ!」
てな、按配でとりあえず一件落着したのであった。

GMS携帯電話を使って気が付いたことは、
発信時に使う通信キャリアは一社限定では無いらしいことである。
どうも、その時点で電波状態・チャネルの最強キャリアが「俺が取ったぞ!」
と宣言するようにチャネルを構成するらしい。
数回の日本への連絡やらロンドン市内での利用で携帯電話液晶画面に現れたキャリア表示は、
「CELLNET」「VODAPHONE」の2社であったのだ。

さて、それでは計画どおり予定再開と、乗りなれた地下鉄セントジェームスパーク駅から
エンバンクメント駅乗り換えトッテナムコートロード駅下車で大英博物館へ向かう。
地下鉄のエスカレータ付近にはギターやらなんやらを持った芸人が歌いながら物乞いをする
姿にも馴れてきた。
なにせ、走行中の車内にも突如芸人が出現し歌い出す土地なのだ。
只の乞食もいるのだが、何もしない無芸人は白人が多いようである。
雨の降り出した路上に、これまた白人のホームレス氏が寝袋にくるまって転がっている、
下半身が濡れているのも「哀れ」の演出か。

大英博物館はなんと!「無料」
しかるに、維持費がボーダイであることから何がしかの「寄付」をいただきたい。
何処の国の貨幣・紙幣でもかまわぬのでこの箱に入れて頂戴とそこここに募金箱が置いてあるのである。
内容はとても一日では見きれない素晴らしい世界の歴史遺産コレクションである。
エジプトの木乃伊とて、何十体あることやら?
大英帝国があのまま続いていたのなら、ピラミッドすら運んできたに違いない。
と、言う位世界中の宝物、珍物、石造物などが陳列されている。
それもまた、ほとんどの物が「触ってもかまわん!」のである。
いやはや、結論的には「世界一の大泥棒(失礼!)」なのであるが、
しっかりと保存し、文化や芸術や歴史の学術的研究に役に立ったのであれば、
現地でこそ泥に荒らされて散逸するよりは何百倍も意味のある事なのであろう。

めぐる部屋毎に、驚愕、びっくり、感激、感動の時が流れていくのである。
感動しても腹は減る。
博物館内のレストランは行列中である、外に出て探すか・・・ラーメンでも食いたいね、
近くにあるらしい・・・ガイドブックで発見し接近するも、
シーズンに備えて電気鋸の音も激しく改装中であった。

しからば、現地食を!と、そこら辺の大衆食堂的レストランへ。
カミさんのご希望であった、フィッシュ&チップスに、私はサンドウィッチをオーダーする。
ほどなく、やたらに大きなフィッシュ(揚げ魚)&チップスの登場である。
サンドウィッチはあまり感心せんね!とコーヒーで飲み込む。

午後の見学も「いやはや!」の連続形にくたびれる。
かの「ロゼッタストーン」を見忘れたね、と、近くの番人さんにお尋ねする。
一日に何百回も聞かれちゃ堪らん!といった風情の紳士は「あっち!」と指を差す。
どうやら、私たちの前に尋ねていた人も「ロゼッタ」だったらしい。
なんと、入り口に近い裏側に「どうだ!俺がロゼッタだ!」とばかりにライトを浴びて鎮座して
いたのであった。

感動の連続的暴力に疲労もなぜか心地よい。「いつかまた来ようね」「また来ましょう」
語りつつ、じっくりと腰を据えて一点毎の歴史を学ぶ老後も楽しいだろうと想像するのであった。

帰り道のホテルに、ゴルフバーゲンの立て看板につられて覗きに入る。
道具は、やはり日本が一番というか、どこの国でも安売りは安物と相場が決まっているらしい。
ホテルに戻り一服した後、今夜の食事は・・・「ロンドン中華街に行ってみよう!」と、
意見が一致する。
気取らずに新宿歌舞伎町的ソーホースクエアにチャイナタウンが例によって
赤い門から200mほど直線的に展開している。

どこの店に入るか悩んだことが失敗であったのか、通された階段側のテーブルに着く。
美味かった英国ラガービールは置いていない。
青島ビールかタイガードラゴンビールだとかでまず喉を潤すが・・・NGである。
何品かの料理も、最後の汁麺もぬるくてまずーい!のであった。
隣席の中国人や地元英国人の方々は、やたらキャピキャピチャンチャンと騒がしく美味そうに
食しているところをみると、英国レベルでの品質が悪いわけではなさそうだ。
日本的中華料理とはまったくの別料理であることを納得して店を出る。

「朱に交われば赤くなる」「悪貨は良貨を駆逐する」そんな格言が、
ぴったりとくるロンドン中華街の一店舗での食体験なのであった。
中華食材なんでもマーケットを覗き果物などを買い、ロンドン中華街に別れを告げたのである。


■12月31日(日) シェークスピアと大晦日

ヴィクトリア・コーチステーション(ヴィクトリア駅前バスターミナル)21番ゲートに
8時30分までに集合とのことで、
例のコンチネンタルブレックファーストを薄暗い夜明けの部屋で食し出発する。

エバンスツアー社8時45分発の「シェークスピアの故郷ストラッドフォード・アポン・エイヴ
ォン、オクスフォード大学街」を訪ねる小旅行である。
特に日本人向けではない外国人旅行者むけのツアーということで、
日本人の客はわれら夫婦と若い女性グループだけである、が、なぜか出発が遅れている。
なにやら、日本人の他の客をまとめてしまえといった乗客調整が行われているらしい。
何人かの後方に座っていた乗客が降ろされ、
代わりに「眼の吊り上った、お行儀の悪い・・・ 日本人グループ」がぞろぞろと乗ってきたのであった。
ああ!。降ろされなかった外国人の中から「俺もこんな日本人といっしょでない車に代えてくれ!」
といったクレームが出始めたが、エリザベス女王に良く似たバスガイド嬢?
ミズ、スーザンの厳然たる「出発します!」の宣言でツアーは開始されたのであった。

ロンドン市内を1時間ほど抜けると一面の牧草地が広がる。
霧と雪交じりの灰色の世界に、緑の牧草が不思議な感覚である。
なだらかな丘陵地に馬や羊の群れが雪に遊ぶ?。そして、クリークには釣り人が居たりするのだ。
道路標識も最小限に抑えられ、もちろんCMの看板もない牧歌的風景に感動せざるを得ない。
そういえば、日本では高速道路だけが似ているといえるのだろうか。

バスはラウンドアバウト方式の信号の無い交差点をスムーズに進行する。
女王陛下似のガイド、スーザンさんは、英語のガイドとローマ字で書いた日本語の案内を
minasan honjitsuwa yokuirasshaimasita.
と、用意されたスクリプトを棒読みにたどたどしく読み上げる。

小さな村をいくつか通り過ぎるが、村毎に家の造りが統一され童話の世界が
そこここに現れるのだ。
草葺きの古い家の保存状態も素晴らしく、草葺きの古い家にオールドスタイルで住むことこそ
最高の贅沢であり最高の趣味であるとのことである。
10時20分、オクスフォードに到着。
ここは大学の街、落ち着いた佇まいに重厚な建物が並んでいる。
大学構内、教会などをオノボリサン的に見物する。
しっかりと土産物屋がたちならぶ広場が集合場所になっているのは洋の東西を問わない現実である。

学生の悪戯か、高い塀の上の銅像の頭に真っ赤なパイロン(道路工事標識)が
被らされているのも愉快だ。
オクスフォードに別れを告げ、次の目的地ストラッドフォードに向かう。
ホテルの部屋のミニバーから持ち出した、グレンフィデッシュをちびちび舐めながら
朝食の残りのチーズをかじる。
バス旅行はこうでなくっちゃ!と、勝手に決め込んでエゲレスの風景に身も心も溶け込んでいくのだ。

ストラッドフォードでは、シェークスピアとその妻ハサウェイの生家を訪ねる。
15世紀に建てられた木造。草葺き、土壁の家である。
家の中は当時の調度品をそのままに展示してあるが、
ベッドのサイズから見ると体型も随分小さかったようである。
丁度、江戸時代の日本人位の感じであろうか。低い天井に難渋する事もなかったに違いない。
調理は暖炉を使っていたらしく、台所に竃などの火の設備はないのだ。
雪の残る庭に黄色い蝋梅が咲いている。
日本との風景の違いは、寒くとも高い湿度から冬枯れしない植物の緑や花の色合いに
あふれていることなのである。

これは、ロンドン市内でも至る所に見られる風景であり、寒くとも心の休まる景色なのである。

雪に花 異国の苫屋 さびにけり

途中のホテルというより、ドライブインでランチタイム。
おきまりの煮込み料理とパンは「確かにまずい!」こんなものだけを食っていたのでは、
「イギリスは不味い!」と騒ぎたくもなるのであろう。
シェークスピア記念館を見学した後、彼の故郷の、エイボン河畔をしばし散歩する。
水上生活者の船やレストラン船の色合いも深い緑や茶色のペイントが異国的?である。
が、小猫が船の舳先で遊んでいるではないか。
日本猫のような可愛い三毛猫である、赤い首輪で鳴き声も「みやあ!」と日本語を使うではないか!

さて、ロンドンへの帰途である。
エンドストーン村は霧氷の並木道。ウッドストックの宮殿とチャコールグレイの屋根、
黄土色とベージュのレンガ壁、白い窓枠といった童話的風景の民家の対比も画になりすぎるほどなっている。

黄昏のイギリスの田舎を後にロンドンに戻る。
ひた走るハイウェイに自動車のテールランプが赤い。
が、ん!テールランプの赤さが違うのである。
なんと!霧のイギリスの知恵なのであろうか、追突防止のバックフォグランプのようである。
ブレーキランプほどの輝く赤色灯がセダンの右側または両側にテールランプとは別に取り付け
られているのだ。
真っ赤なお尻をピカピカさせてセダンどもは、ビュンビュン飛んで行くのであった。

帰りの車内で疑問であった、「鰊の酢漬け」について女王陛下に質問する。
隣席のアメリカ婦人と白髪・鼻髭・ロイド眼鏡といった元貴族の御者風ドライバー氏と
3者協議の末に、その製品名は「pickled herring」であることが判明したのである。
そうなのである。鰊はherringなのである。
英国洋服生地に、ツイード、ホームスパンと並んでヘリンボーン(杉綾)というのがあったではないか。
小骨のやたら多い鰊の骨をイメージした生地のネーミングだったんだね。

日本人はさすがに背広の生地を鰊骨柄とは言わずに、
ヘリンボーンだけを杉の木のイメージに置き換えたとは素晴らしいではないか。
ちなみに、ピックルドヘリンは「其処ら辺で売ってるわよ」との仰せであった。
つまり、我々は鰊の英単語を正確に知らなかったことで、大騒ぎをしてしまったのである。
残念なことには持参したザウルスの和英辞典には、「にしん」の英訳が無かったのであった。

すでに、暗くなったヴィクトリアコーチステーションに到着し一日の小旅行を終えた。
駅前の両替屋でポンドを調達し、国鉄ヴィクトリア駅を覗いて見る。
どちらの国も鉄道駅には浮浪者風の男や、駅独特の雰囲気がある。
長距離ホームなども切符無しですいすい入って行けてしまうところなどは面白い。
駅構内のスーパーマーケットで果物などと、明日のミュージカル観劇後の夜食、
缶ビールを買い込みホテルに戻ったのであるが、ホテル付近にはスコットランドヤードに近いためか、
警察の車両が数台駐車し中にはお巡りさんが満員ではないか。
ふーむ!大晦日の晩である、トラファルガー広場の騒動に備えて待機なさっているのであろう。
何処の国でもご苦労なことである。

さて、私たち夫婦の大晦日の晩飯はホテルのディナーにすることにし電話で予約する。
8時15分という、摩訶不思議な時間に席を確保しとりあえず一張羅のドレスアップ?で
お邪魔する。
先日のミズ・フィリッピン、ウェイとレスに挨拶し席に着く。
ビュッフェスタイルとのことで一安心し、シャンペンでの乾杯もそこそこに料理にチャレンジである。

クリスマスらしく豊かな気分の料理が並んでいるが、
例によって焼きトマトやら根性たっぷりの野菜もたっぷりである。
ローストビーフとボイルド塩漬け豚はどちらか一品をチョイスせよとのお達しである。
「そんなこと言わずに、両方2枚づつ、つまりダブルダブル頂戴!」
とインド人シェフに頼んでみる。
なんと黒い顔をほころばせ「OK!」と大きな固まりを切り分けてくれたのである。

ローストビーフも美味しいが、塩漬け豚のボイルも初体験であるが「旨い!」のである。 
大英帝国大帆船大航海時代の海軍、海賊小説に出てくる樽塩漬け豚とはこのことであろうか?
ホーンブロワー提督も結構旨いものを食っていたのではないか!。
シャンペンから赤ワインに酒もすすむ。
クリスマス名物料理の血のソーセージも風味豊かに狩猟民族の決意の表明を感じる。
明るい楽しげな周囲の雰囲気に溶け込んで「語らずとも語る」夫婦の大晦日は福腹しく
過ぎていくのである。

おもてでは、お巡りさんたちも配置についたことであろう。
トラファルガー広場の群集が新年へのカウントダウンの準備をしているのであろうか。
ウェストミンスター寺院の鐘突き男も鉢巻きを締め直しただろうか。
紅白歌合戦と除夜の鐘の無い大晦日を腹一杯の幸せに包まれて、
ワインの酔いをベッドに語るのであった。


■1月1日(月) 新年パレードに、泥棒紳士登場! 大感動の「オペラ座の怪人」

明けて、1996年の元旦である。TVニュースも見慣れてきた。
イギリス北部の猛寒波での被害状況も淡々と報道されている。
SKYNEWSの天気予報キャスター、フランシス・ウィルソン君のロンドン周辺以外の天気は
どうでも構わん的表現もおもしろい。

旧英領世界各地の大晦日から年明けの模様を特集している。
もちろん、本家のトラファルガー広場の年越し馬鹿騒ぎも映し出されている。
TVCMに目立ったものはないが、チューリップ・コンピュータ社のパソコンCMも落ち着いた
美しさで静かに語りかけているのが印象的であった。

定番のコンチ朝食の後、今夜のミュージカル「オペラ座の怪人」の切符を受け取りに行く
コースを考え出発する。
徒歩でウェストミンスター寺院に向かう。
新年の鐘が時折鳴り響くが寺院は静寂である。なんと、中に入れてくれるではないか。  
素晴らしい宗教的空間が厳然と存在する。入口付近は戦士の墓が並ぶ。
個人個人の名前や階級が書かれている、ライフルマン、ジョージ・ケントやらなんやらの後に、
シェークシピアや詩人の誰某。政治家の誰某。と、
名前入りの石板が葬られている場所を示しているのであろうか。
廊下的床にもあるため、無礼にも足蹴にせざるを得ないのだが、国民性の違いなのであろうか?、
誰もが墓石の上を歩いて行くのである。

しかしながら、王侯貴族の墓は部屋であったり、
一段と高い場所に贅を尽くした棺に納められていたりするのも現実であり、
この身分差別こそヨーロッパの根っこなのではなかろうか?、などと哲学するのである。

ウェストミンスター寺院からテームズ河沿いに歩く。
ビッグベンからオールドスコットランドヤードの古めかしい建物にシャーロック・ホームズを改めて想う。
ロンドン塔、ロンドンブリッジを回り、近くのホテルでトイレを拝借する。

たまたま、新年パレードに参加した女子中学生?バトンチーム、
鼓笛隊が帰って来たところらしい。
この、寒さにもめげずに両腕太股丸出しの熱気と輝きに圧倒される思いである。
では、では、野次馬しましょうと、繁華街ピカデリーサーカス交差点方面に足を伸ばす。 
様々な新年のパレードが展開されているようである。
丁度、消防署のパレードなのであろうか、
いろんな消防車や梯子車にデコレーションを施し動物等のぬいぐるみに身を固めた消防士?が
手を振って音楽も賑やかに通って行く。
見物するのによい場所はないかと、振り替えると・・・
カシミヤのコートにタイも凛々しい紳士の行動が異様である。
なんと、駐車中のワンボックスワゴンのテールランプを石で叩き割っている!!!
割れたカバーを捨ててランプを一個づつ抜き取ってはビニル袋にしまっている!!!
私と眼があった途端に、ニッコリ笑っておもむろに立ち去ったのである・・・?

紳士風体の自動車部品泥棒なのか! 
正月も元日から・・・うーみゅ、日本でも正月ぐらいは泥棒も休むのではなかったか。
それにしても、せこいドロちゃんというには立派な紳士風であったことが
哀しい冬のロンドンの現実なのである。



ウォルドルフホテル内のUCデスクに頼んでおいた、ミュージカル・チケットを受け取りに行く。
ハー・マジェスティ劇場で公演されているミュージカル「オペラ座の怪人」は
ロンドンでも最高の人気とのことで、正規窓口では入手できずアングラチケットならば、
ということでダフ屋さんの手数料込みの料金、一人100ポンドとなってしまった。
おまけに、アングラであることによって、「現金で!」なのである。
が、購入決断の判断基準は、歌舞伎座一等席より安い!ことにあったのである。

切符を入手しての帰りの道すがら、交差点で地図を確かめていると、
中老の紳士がつかつかと近づいてきて「道案内をして差し上げようか」などとのたまうのである。
が、先程の泥棒紳士の雰囲気に良く似ている。
さほどの悪さをするとも思えないが、「いくばくかの案内料を」などと言われそうな感じから、
丁重にお断りしたのであった。
 
公演終了が夜9時過ぎということから、名物のアフタヌーン・ティーをホテルに戻り頂戴する。
紅茶もきちんとたてられているものは美味しい。
サンドウィッチもパンに滋味がある、ハムの味わいが深い。
クッキーにもジャムやらバタやらを塗って食すらしいが私の趣味ではないのでコメントできない。
とはいいつつも、少年時代以来ご無沙汰のお菓子に食らいついたのである。
食味については「言わぬが花の吉野山」としておこう。

ゆふくれのロンドンを地下鉄に乗って劇場に出陣する。
歴史も由緒もある劇場である。
余分に金を払っただけのことはあり、前列から5列め中央の特等席である。
文句なし万歳!に着席し開演を待つ。
一応、例の一張羅に身を固めてはいるが、周囲の客は多少カジュアル的な人もいないではない。
が、左右の一段高い桟敷席はさすがに肩をあらわに出したドレスのレディと
タキシードのジェントルマンがシャンペンのグラスをかたむけているようである。

さて、ベルの音とともに開演・・・・・声量、迫力、音楽性、ストーリィ展開、・・・・・
なにも言うまい。
言葉はわからなくとも、感動が感動を呼び感激の嵐に翻弄される小舟になってしまう。
滲む涙を隠す気にもならないまま、幕間から終盤へ・・・・・そして、幕は降りた。

実のところ、劇場ミュージカル初体験であるのだが、「いいものに出会った!」のである。
万雷の拍手は感動が我々だけではない証明であろう。
両手が腫れ上がるほどの拍手を私達も贈ったのである。
帰りがけの売店で、CDと仮面タイタックを記念に買う。
帰国後聞いたCDのアクターが出演者と違っていた事が少し残念であった。
感動の余韻をロンドンタクシーに委ねホテルに戻る。

入浴後、昨日用意しておいた「缶ビール」「ハムなどのパックおかず」で乾杯し、
感動の興奮をクールダウンさせる。
「それにしても、ビールが旨い!」ロンドンで食べる「赤いきつね」も旨い!
いい正月なのである。


■1月2日(火) 公園に栗鼠と遊び、一路日本へ!「出女捕まる」

帰国の朝である、荷造りをまず済ませ(夫婦そろってA型人間なのだ)て、散歩朝食に街に出る。
イタリア風サンドウィッチやらファーストフーズ「製造直売その場で召し上がれ」
ショップレストランに入る。
街のサラリーマンのご利用店らしく、ランチの買い出し後出勤といったパターンが多いらしい。
サンドウィッチ、野菜サラダ、ゆで卵、ミルク、コーヒーなどを購入しテーブルに着く。
なるほど、作りたての新鮮さが売り物なのがわかる味わいである。

食後、本屋、文房具屋をのぞいた後、
道路から小広場を挟んで端然と屹立するウェストミンスター大聖堂にお邪魔する。
小広場で朝食残りのコーンフレークなどを鳩の群れに寄進し、中に入らせていただく。
ヘンリー8世以降何世紀にもわたって隠れキリシタンを余儀なくされた英カトリックは、
英国国教のウェストミンスター寺院の大伽藍に比べて華やかさには劣るが、
歴史と威厳に満ちたなかなかのものである。(この辺のことは、カミさんの記述である)

しばし、厳粛な雰囲気に浸る。聖堂をうめ尽くすほどの蝋燭の炎の揺らめきに、
精神的インフラストラクチャーも宗教的財産も「違う」と、あらためて認識させられたのであった。

通りがかりにスーパーマーケットを発見する。
最後の日であるが例の「picled herring」をなんとしても探したい・・・
缶詰・・・瓶詰などの売り場を探すが見当たらない。
えぇーっと! あった!
日本と同じく新鮮魚類コーナーにポリエチレン・パックの「にしん君」は輝いていたのである?

それししても、肉と魚の売り場面積比率は100:1位の差があろうか。
まさしく肉食狩猟民族、ビーフイーターであることを認識させられたのである。
価格的にも肉1kgが1ポンド! とは、日本の10分の1ではないか!
うーみゅ! 没落し黄昏の大英帝国といわれても、民草の日常生活は豊かなのである。
泥棒だって、カシミヤのコートに身を固めているんだぜ!?

ホテルに戻り、チェックアウト、荷物の発送確認を終え、
残った時間を近くのセントジェームス公園の散策にあてる。
広々とした空間に静けさと、トイレなどは建物すら直接見せない工夫とシステムが作られている。
公園を横断すると、なんとバッキンガム宮殿が左手に見えるではないか。
つまり、ロンドンの日比谷公園であったことに気付いたのである。
戻る道筋に、小動物がちょろちょろ動いている。
近寄れば、栗鼠であった。「ごく当たり前の生き方をしてるんだぞ!」
「人間が来ても関係ないもんね!」と、彼らは例の如く口をモグモグさせ続けるのであった。

定刻に迎えのバスが到着し、ヒースロー空港に向かう。
空港内売店をぶらつき、「腹を満たしておこうか!」と、衆議一決しイタリアン・レストランに入り
(今考えると、やたらとイタリア料理の進出が激しい?)スパゲティとサラダ・紅茶で軽く済ます。
出国審査に引っ掛かるはずも予定もないのであったのだが・・・。
「ジャーン!」入り鉄砲に出女の例えは現代にも通じるらしい。
なんと、カミさんのバッグから警報が発せられたらしい。
すべての中身がぶちまけられ、真剣なのか適当なのか判らんチェックが事務的に執り行われる。
結果は、日本出国、英国入国では問題にされなかった盗難防止チェーンが「真犯人」であった。

不満と文句とを合わせてバッグに詰め込み機上の人となる。
往路も一緒だったカップルなども見掛ける機内はすでに日本国である。
幸い?座席がスクリーン前の最前列であることから、足元にややゆとりがある。
見難い映画などを見る。食事をする。週刊誌を読みまくる。少しは眠る。
苦難の修行の後に午後の成田空港に着陸したのであった。

なにはともあれ、レンタルのGMS携帯電話を返却する。
料金の清算はなんと電話機本体に利用明細ジャーナルが記憶されていたのだ。
「これは、うまい仕掛けではないか!」 思わずニコニコ支払いに応じたのである。
パーキング会社の迎えのマイクロバスを待つ。
久々の日本季節風の乾いた空気が鼻の穴を厳しく攻めたてる・・・実感! 日本の冬であった。

駐車場から愛車ジムニーに荷物を積み込み自宅に向かう。
なぜか渋滞の模様は・・・新年初詣、成田山新勝寺へ出入りする善男善女の群れなす車が、
「簡単には入国させんぞ!」と、立ちふさがっていたのである。
 迂回路の田圃道から利根川沿いの国道へ、
あちらこちらで交通事情、道路事情の違いを実感しつつ、
日本的カルチャーの再洗礼を栄誉礼として受けつつ国道6号の大利根橋を渡る。

たそがれ近い木枯らしの中を、すっかりと完璧日本人に再変身して、
自宅の玄関を跨いたのであった。